群馬県立土屋文明記念文学館

特別館長日記

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令和2年8月31日(月)

 何にじれ伯母のべっ甲櫛投げうちし一生の記憶始まる三歳(『青南後集以後』)
 縁日の露天はづれの銀杏の下みちを枉げ伯母の櫛尋ねき十年ならむ(『青南後集以後』)

 文学館を西に二百メートル程行ったところに、西光寺というお寺があります。保渡田古墳群の一つである薬師塚古墳の上に建てられています。
 明治時代、三歳の文明は、寺の縁日に母と伯母に連れられて出かけ、銀杏の木が生えている辺りで、何かに腹を立てて伯母が身に付けていたべっ甲の櫛を放り投げてしまい、見つからなくなってしまいました。その後長く、文明は、近くに来ると、銀杏の木のところに立ち寄り、櫛を探し続けたそうです。
 その銀杏の木は、ずっと保存され、大木になっていました。しかし、昨年、倒木の危険があるということで、仕方のないことですが、切られてしまいました。

 暑さも少しやわらいできたので、久しぶりに行ってみたところ、文明由来の銀杏を示す標識はそのままで、銀杏の木は、切り株だけが残っていますが、草に蔽われ、いきさつを知らなければそれとはわからないようになっていました。

 やがて、前橋から富岡に通じる幹線道路がこのあたりを通ることが計画されています。この世のものがうつろいゆくことは避けられないことですが、できる限り大切なものを保存していく配慮も必要ではないかと改めて思いました。

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